ちょっといい話

月食

今晩の空を見上げている人には声をかけたくなる。 そんな感じでむずむずする夜。 遅い夕食の帰り、いつもの道を自転車で帰る途中で気がついたのは、すでに月食が始まっていたことだった。 赤黒く浮かんでいる月を眺めようと自転車を止めたわたしに、そのおば…

抜け道

自転車だけのみちというものが自然とできることがある。 車には幅が狭すぎて、自転車や徒歩で通り抜けることができる、いわゆる抜け道。 その自転車みちは誰かの住宅の横をすり抜ける。 その住宅の人の近くを、なぜか夜遅く庭の植木に水をあげている傍を、ゆ…

概要

「ちょっといい話」とは、その名の通り、アスパラにとってほんのちょっとだけいい話です。 「ものすごく嬉しかった」り「死ぬほど笑えた」り「お金が儲かった」話ではありません。 その瞬間がとおりすぎてしまうと、いともたやすく日常の中に埋もれてしまい…

共同作業

深夜に自転車で徘徊していると踏切で工事をしていた。 遠くでドロロロと音がし、いかにも暴走中といった風情のバイクが3台やってきて、ボロロガオンとうなった。 工事現場の警備員は慌てて3台を押し止めようとするが、踏切工事は道路の真ん中で行われてい…

頼もしい

帰省中の北海道は暑く、いつも半袖と短パンで過ごしていた。 短パンから覗かせたわたしのふくらはぎを見て、父がふと言った。 「おまえ、頼もしい足してるな」

挨拶

わたしが働く大学にはいろんな教員がいて、ある中年女性の助教授は、既婚か独身かはわからないが、美容院へもあまり行かないと思われる頭髪と、必要最低限のやり取りのみで意志を伝えているような、そんな機械的な印象を与える人だった。 大学構内でその助教…