挨拶

たしが働く大学にはいろんな教員がいて、ある中年女性の助教授は、既婚か独身かはわからないが、美容院へもあまり行かないと思われる頭髪と、必要最低限のやり取りのみで意志を伝えているような、そんな機械的な印象を与える人だった。
 大学構内でその助教授にすれ違ったとき、わたしは普段どおり「こんにちわ」と声をかけたが、頭ぼさぼさの助教授はあんのじょう、なにか考え込みながら返事もなくせかせかと歩み去って行った。 そこから2、3歩進むと、後ろから小さく「こんにちわ」と聞こえた。 気のせいかと振り向くと、すれ違った頭ぼさぼさの助教授がこちらを向いていて、再びわたしへ「こんにちわっ」と言った。 わたしも改めて「こんにちわ」と言うと、助教授はにこっと笑って再びせかせかと歩いて行った。