「神様」

刊を読む目をあげて、直クンは今日も唐突に言った。「ねねねね、心の中には、とても美しいキラキラとしたカタマリが収まっているんです」
僕が「なにか新聞に書いてありましたか」と聞くと、直クンはんんーんとハミングしてから、一気に続けた。


「いや思いつき。で、その奇麗なカタマリは、いい人もわるい人もそれぞれ同じ量だけ持っていて、あまりに大切に奥深くしまい込んじゃった人は、どこに置いたのやら見失っちゃって、ついつい粗暴になったり怠惰になったり、無関心になっちゃったりするんです。だから、その、心の中で奇麗にキラキラ輝くカタマリは、たまーに取り出して色んな人に見せてあげたり、また誰かの奇麗なカタマリを見かけたら、ああ奇麗なカタマリだねって声を掛けてあげれば、さらに奇麗にキラキラピカピカ輝くんです」


 僕はたずねた。「じゃあ、僕のカタマリはどんな感じ?」

 直クンは僕を、湖の底を確かめるようにしばらく見つめてから言った。「奇麗なカタマリだよ」

「それだけ?」

「うん」と直クンはまた朝刊へ戻っていった。