「三日月」

車通勤を始めて3年あまり経った。今日もいつも通り、日比谷駅で乗り替えた千代田線は、常磐線各駅へ乗り入れる。約一時間半弱の通勤時間とはいえ、一回だけの乗り換えと、いわゆる“逆方向”のおかげで、駅から自宅まで歩く元気は確保している。

 ただ、少し残業ぽくなると帰宅が22時を越える。直クンが僕の帰りを待っている。残業だってカンタンではないが、夕食を我慢しながら、他人の帰宅を待つのもなかなかなことではないと思う。


 お味噌汁を作りながら直クンが「今日の三日月見ましたか?」と聞いた。

 「見ました。まるで絵に描いたみたい、というよりは、あの美しさは人間ワザじゃありませんね。星もたくさん見えました」と、僕は冷凍ご飯をチンしながら答えた。

 今日はこの程度しかやりとりしない。でも、二人で同じ頃に同じものを見上げていたことは確認できた。