プロミス

上和香が微笑み、ささやく。「ね、相談できるパートナー、いる?」
「い、いる要る、ちょうだいちょうだい!」
「違う! あたしが聞いているのは、欲しいかどうかじゃなくて、いるかいないかなの。存在を確認してんの!」
「井上が存在なんて言うなよぉ」
「をぃ、人の話を聞け」
「ハイ」
「まずこっちが質問する」
「ハイ」
「それに対して的確に答えろ。わかったか」
「ハイ」
「よし。年齢はいくつ?」
「32」
「ソぉをつけぇぇえぃ!」
「35」
「ガうだろ」
「38」
「よし。年齢は38ですね」
「ハイ」
「結婚していますね」
「ハイ」
ロータリークラブを、いつも“ロリータクラブ”と読んで、ひとりニヤニヤしてますね」
「ハイ」
「お金に困ったときは、奥さんには相談できませんね」
「イイエ」
「ンだとぉ」
「いえ、お金に困ったことがないんで」
「いままで一度も?」
「ええ一度も」
「友達にお金を貸して、なかなか戻ってこなかったことは?」
「どちらかというと、友達からお金を借りる立場かなあ」
「じゃあ、彼女とデートするのに、着ていく服も、食事するお金もないときは?」
「彼女からもらったポロシャツ着て、吉野屋の牛丼を食べます」
「その吉野屋さえ出せない時も、あるんじゃない?」
「そういうときはデートしませんから」
「それじゃぁ、彼女と携帯メールしまくって、次月の請求額が10万円を越えてたら?」
「一週間毎晩、東京−大阪間で電話をかけて、請求が10万越えてびっくりしたことはありますよ。でも、すぐ払いました」
「あンた、お金がないンじゃなかったの? なンでそこで10万円ポンと払えるの? 信じらンない」
「だから、お金に困ったことないんですってば」
「さっき、友達からお金を借りてるって言ったじゃない」
「貸すよりは借りる立場に近いかなと思って」
「そんなことありえない……」
「は?」
「みんな、お金を儲けようと、どれくらい苦労してるか、あンたわかる?」
マクドでバイトとか、普通にしたことありますが」
「フリーターはどうでもいいのよ! 毎日まいにち満員電車に揺られて通勤する人の気持ちが、あンたにわかる?」
「いまは定職に就いていますが、通勤電車で往復3時間かかります」
「あたしが言いたいことは、おしりとか胸とか触られて、それでも乗ってる間やめてくださいなんて言えないから、会社へ着いた途端、トイレでゲーゲー吐いて、お化粧を直そうと思ったら、その日に限って口紅だけ忘れてきた時の気分、あンたにわかる?」
「それは辛いことですね」
「ウソ! この話はうそ、作った! 本当は、グラビアデビューする前はキャバクラにいたんだけど、もっと前はオペレーターをしてたの」
「なんのオペレーターですか」
「金融関係ってとこね。合宿はとても厳しかった。月若女先生が、あたしの才能を見いだしてくれたの」
「グラビアアイドルの才能ですか?」
「あンた、人の話聞いてンの? いったい何聞いてンの? 才能っていったら、オペレーターの才能にきまってるでしょ」
「月若女先生は、オペレーターの先生なんですか?」
「そう、あたしの和香は月若女先生からいただいたのよ。あるとき月若女先生はあたしに言ったわ。『和香、あなたには千の“はい”を聞き分ける才能があるのです。自分の才能を信じなさい。おーっほっほっほっほ』って」
「最後の笑いはなんですか」
「でねでね、きいて聞いて。夜中にあたしふと目を覚ますと、ミサコが……」