空耳袋

湯船

湯船につかり一瞬ウトッとした。ハッと気がつくと、今日ためたばかりで底まで透明だった湯船が、灰白色に濁っていた。

あごヒゲ

誰にでも一人くらいは、あごヒゲを伸ばす友だちがいるに違いない。そこでこんなことを考えた。単純である。あごヒゲを伸ばしたおっしゃれーな友だちに会ったら、演技力豊かにこうするだけだ。 「自分のあごを触りながら、びっくりしたように『あれ、ヒゲそっ…

ネズミ

雨がちでじっとりとした気候だった。街灯がぽつぽつと点いても、なんとなく見晴らしが悪い夜。駅から自宅まで歩いていると、斜め前を歩く背広姿の男が急にこちらを振り向いた。ふと、遠くで聞き慣れぬ音が聞こえた。 (あ゙おっ) 音が聞こえると、斜め前の男…