恐怖箱 怪医|雨宮淳司|竹書房文庫|2008/05/02-05/03

恐怖箱 怪医 (竹書房文庫 HO 48)|P235|自|5
感的な部分がたいへん怖い
(見返し)●著者紹介:雨宮淳(あめみや・じゅんじ):1960年北九州生まれ。医療に従事する傍ら、趣味で実話怪談を蒐集する。2006年、実話怪談コンテスト「超-1」にペンネームじぇいむで参加。同コンテストの優秀者によるアンソロジー作品『超-1 怪コレクションvol.3』に衝撃の問題作「直腸内異物」を発表し、話題をさらった。以後、「不思議ナックルズ」(ミリオン出版)にも医療系の異色怪談を発表し、人気を博している

繭の中
(P20)草刈り機で上っ面を払っただけであれだ。見つけてしまった今、いつ何が起こるか分かったものではない
ディプロピア
(P30)墨を塗りたくったような真っ黒い顔。陽子ちゃんの脇から胸に回された両腕も焼け焦げたように黒い。卵形の頭の片方からのみ、長い縮れた髪が房状になって垂れている。中心にまん丸い目があるが、顔の半分を引き延ばしたようで、薄高い鼻が本来なら耳の付いている部分に生えていた。また、顎の下と思われる部分から、赤黒い牛タンのような巨大な舌がぶら下がっていた。そして、その一個しかない目には明らかな愉悦の感情が浮かんでいた
規矩準縄
(P47)「規」はコンパス、「矩」は物差し・定規のこと。「準」は水平器、水準器。「縄」は墨縄のこと。「規矩」「準縄」ともに規則、法則の意で、同じような語を重ねて、意味を強めた言葉
正露丸
(P67)唐突に、口の中に変な苦味が湧き上がり、独特の薬臭いあの味がした。正露丸の味だ
おまけ
(P71)・霊は、アイスクリームが好きらしい。
・霊は、冷蔵庫から出られない
ローレライ
(P91)小さかった灯火が揺らめいて、何か樟脳火のような陰鬱な光輝を放ち始めた。そして瞬く間に火の数が増え、クリスマスツリーの電飾のように螺旋状に並ぶと円形にスイッと動いて、その中央に人間の首が現れた。中年の太った女の首で、その女は気持ちよさそうな表情で歌っていた
ぞろびく
(P101)明川さんが、原因であるモノノケをぶち切ってしまったためではないかと言われている
雑巾様
(P127)撒いた水で黒くなった地面から、朦朧と丸いものが立ち上がっているように見えた。ふるふると蠢き、どこか蛙の卵を連想させた。そして、マスクメロンくらいの大きさのそれには、生々しい紅い唇がポツンと生えていた
ヘアートニック
(P158)絶句していると、一人ずつゆっくりと膝を折って座り出した。その身体からバリバリと腱の切れるような、擦れるような音を発している。きっかけもなく、一斉に嘔吐を始めた
表と裏
(P174)──少女の安らかそうだった目蓋は半開きになり、白濁した眼球がこちらを眺めていた。唇も捻れてだらしなく開き、青黒い膿汁が口角から顎に伝っていた。体付きも全体に弛緩して、びっしりと皺の寄った灰色の皮膚が、今すぐにでも臭ってきそうなほどだった