3つのドグマ

「スッポン鍋幻想」……マイカップでスタバのホットココアトールを飲む。簡単にゆすぎながら、いつもそのカップでホットココアを飲むうち、ある時お湯を注ぐだけでスタバのホットココアが味わえるようになる。


「モテ度最大振幅」……結婚を一ケ月後に控えた僕は、小学校の頃よくお医者さんごっこをしていたひろちゃんがまだ結婚していないことをゆみちゃんから聞いた。結婚を半月後に控えた僕のもとへ、中学時代につきあいキスまでいった彼女から懐かしい手紙が届いた。結婚を十日後に控えた僕の部屋の留守電に、高校で童貞を捨てさせていただいた先輩からの簡潔なメッセージが入っていた。結婚を来週に控えた僕の会社のメールボックスに、同期入社かつ一緒の大学で同学科卒業かつ同棲までしていた慧からの約7行のメールを見つけた。結婚を五日後に控えた僕の自宅のポストに、僕の部屋で週一で英語を教えている大家さん自慢の清楚な娘さんから勉強予約メモが入っていた。結婚を四日後に控えた僕の玄関前に、いつも旦那さんが長期出張中でケーキを焼いた時や夕食を作り過ぎた時はいつもご相伴にあずからせていただく道路向かいのまだ子供がいない太田さんからオダマキの鉢植えをもらった。結婚を三日後に控えた僕のケータイに、苦しい時期にはいつも励ましてくれたお得意先のやり手主任の兼平女史からいたずらメールが1,317通届いた。結婚を二日後に控えた僕の部屋のガンプラをバラバラに壊したのは、部屋の合鍵を渡した四日後に僕の部屋で褄葺課長とセックスをしていた最近消息不明のフリーターユカリの仕業だろう。結婚を明日に控えた僕のドアをノックしたのは、どしゃ降りの中たまたま雨宿りをしているように見せかけたあのお医者さんごっこのひろちゃんだった。結婚式を一時間後に控えた僕は、ここ一ト月間の密度の高い日々をじっ……くりと反芻している。


「怨念集中」……前の車が急に止まったので慌ててクラクションを鳴らして、追い抜きざまに運転手を見た。止まった車を迂回しながらベルをジャカジャカ鳴らして運転手を見た。バスは小刻みにブレーキをかけながら車を避けバックミラーで運転手の顔を見、車中の乗客はみな頭を回して避けた車の運転手を見る。