東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編|菊地成孔+大谷能生(おおたによしお)|文春文庫|2009/04/12-05/29

東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)|335P|自|5
学のジャズ研時代に、訳もわからずスケール練習していたテキストが、コーダル・モーダルに基づいたものだとわかった
(P8)ジャズ史に限らず、およそ人間が編纂(へんさん)する歴史は総て偽史である。この「歴史」が持つ構造的な不全性が近代を牽引しているのではないかと思われるが、我々は(ちまた)で喧伝される「一般的ジャズ史」が、それにしても余りにロマンチックで思考停止的で自己完結的で非越境的であることに辟易(へきえき)していたところだったので、魅力的な(信用され、汎用され、正史として採択されるような)偽史を新たに生み出すなどという大事業に着手する遥か以前の仕事として、とりあえず「一般的なジャズ史」という、実に厄介な巨魁(きょかい)(ほころ)びを、毎週決まった時間に決まった場所に赴き、丁寧に丁寧に縫い合わせていく
十二音平均律:(P15)だいたい18世紀半ばから西欧音楽の中で使われるようになった、音楽における調律の仕方(P17)それまでの音楽のデジタル処理化

バークリー・メソッド
(P19)曲の旋律と和声っていうものを、メロディーとコードっていう二つのブロックに分割して、で、コードを「シンボル」、つまり、ある体系に従って記号化して表記し、処理していく方法ってのを普及させた

「音楽を記号化して処理したい」という強い動き:(P23)1722年、1950年、1983年の三つのピーク

トリスタン和音
(P42)「トリスタンとイゾルデ」の中のある和音の機能の説明を、ジャン=ジャック・ナティエの著作『音楽記号学』では、音楽批評家たちの解釈を33通り載せている
コード・シンボル
(P52)和音を記号化したもの(P53)「最低限これを守らないと曲が成り立たないよ」っていう規範を示すと同時に、「これさえ守っていればいろいろと変化をつけても大丈夫だよ」っていう外枠を示してもいて、まるで父性と母性をあわせ持ったような存在
モダン・ジャズ
(P53)バークリー的記譜法(コード・シンボルで指示された記譜法)によって初めて可能となる音楽
ビバップ
(P58)(A)音楽のゲーム化、スポーツ化
(B)演奏のゲーム化による、演奏時間の長時間化
(C)プレイヤー同士のカット合戦(腕比べ)から生まれる、演奏技術の極端な高度化(高速化、転調の複雑化)
(D)全ての楽器がソロを取るという姿勢から生まれる、各楽器間のヒエラルキーの崩壊、平等化、小編成化
リンディ・ホップ
(P62)リンドバーグが大西洋横断飛行に成功したってところから作られた言葉。別名「ジター・バグ」。日本で「ジルバ」として流行
四度圏表 (Circle of 4th)
(P142)完全四度で時計回りに配置した圏表。C→F→B♭→E♭→A♭→D♭→G♭(F♯)→B→E→A→D→G→C。クラシック楽典では逆回りに五度圏と呼ぶ

(P174)ビバップとは、コード・シンボルの意味を演奏中に瞬時に読み取って、それをプロセスすることによってフレーズを生み出していくっていう、生成言語としての側面を強く持った演奏によって成り立っていました

コード・ケーデンス
(P175)機能和声。サブドミナント(SD):宙吊り/温い緊張 → ドミナント(D):緊張 → トニック(T):安定などというドミナント・モーションなどの進行を言う

(P182)バークリー・メソッドっていうのは、アメリカのポップスに強力にインフルーエンスした「ブルース」っていう統合不全児の分析&回収のために発達した、という面もあります

モーダル・インターチェンジ
(P185)「So what?」は、曲の構造としては、途中で半音上の同じドリアン・モードに移って、また半音下がって元に戻る。このモードの変化がドミナント・モーション的な効果を生む

(P188)モードっていうのは、機能和声の連結によって音楽を進めていくことを拒否するっていうイデオロギーで、これは大きく言えば反近代、脱アメリカ、もっと言えば反商業主義

LCC
(P188)『リディアン・クロマティック・コンセプト』 (The Lydian Chromatic Concept of Total Organization for All Instruments)、ジョージ・ラッセルの著作、理論書。基本的にモードで音楽を考えるが、全てのモードの母体をリディアンとする(P242)LCCはモード技法にも公理がある、という立場を取っていまして、この場に及んでもマイ・ペースで自分の教えを広めることに専念していました

(P215)ここではただ「鈴は危険だ」ってことを言っておきたいと思います

SABPM的
(P218)Space Age Bachelor Pad Music=宇宙時代の独身者がカウチに坐って聴く音楽。命名者はバイロン・ワーナー (Byron Werner)(P279)

(P240)モーダル/コーダルとは、モード状態とコード状態の「キメラ」みたいな曲なんですよ。あと、いま、「部分的には関係線で結べる部分がある」って言いましたが、これも実は両義的で、ケーデンスを作ることができるようにモードを配置することによって、いわばモードがコードを擬態しているような状態だ、とも考えることができます
(P241)この講義として重要な点があるとすれば、バークリー・メソッドが体系化した機能和声のシステムが、こうしたジャズにはもう充分に適用することができなくなっている、ということです
(P245)コードが反復・繋留する音楽形式をスプリング・ボードとして、JBは曲中の和声感を減らしていき、その代わりにリズム・パターンを前に出して、律動とシャウトのヴァリエーションだけで成立する音楽を作り出していった

トータル・セリエル
(P259)音高だけでなく、音価・強弱・アタック・音色なども厳格に音列技法によって統治する作曲法である。日本語で「総音列技法」、「総音列音楽」とも言う
ジャンベ
(P259)西アフリカの太鼓。ゴブレット型
ビリンバウ
(P259)ブラジルの民族楽器。打弦楽器の一種。ブラジルのカポエイラで使用される

(P265)アンプリファイアされた楽器の特徴である濁りと歪みは、コーダルな音楽に適応させることが難しい
(P266)アンプリファイアによる音の増幅っていう要素を真っ先に取り入れたのはR&Bと、その転回形であるロックンロールというジャンルにおいてでした。これはね、ロック──というよりも、ブルースっていう音楽が、もともと音楽構造的にノイズだらけであって、機能和声的には20世紀のポピュラー音楽の中で極めて異端の存在だったからだ

マイルス・マジック
(P270)(P272)

(P276)マイルスは生涯にわたって音楽的にプログレスし続けた、という言説もありますが、僕の考えでは、だいたい70年あたりから、一時引退する1975年までっていうのは、精神的にも肉体的にもしんどくて、マイルスは殆ど正気じゃなかったんじゃないか、と。70年代マイルス発狂説を僕は支持します